空間を緩やかにつなげ開放するスキップフロアの魅力。
「細長い間取りでも、対面式のキッチンにしたい」
何度も何度も打ち合わせを重ねてたどり着いたのは、壁付きのキッチンに小さなアイランド型を直角に配置する組み合わせだった。
そして最終的に、ここ杉並区の閑静な住宅街に決まった。レッカー車などの入れない特殊なT字型の土地だが、手組みの2×4工法を採用すれば、施工に何も問題ない。そのT字の縦棒部分はアプローチで、横棒部分に建物。建築面積は約42m2(約12坪)と、立派に「狭小」なのだが、入ってみると不思議と狭さを感じない。なぜだろう。
その秘密がスキップフロアである。南北に細長い空間を広く使うために、間仕切りはない。
しかし、ただ間仕切りがないだけの平面空間では退屈になる。そこでスキップフロア。2階のキッチン&ダイニングから少し段差を下ってリビングへ、リビングから少し下って1階玄関や寝室へ、少し下って半地下の土間(趣味の部屋)へ、さらにキッチン&ダイニングから少し上ってロフト、ルーフバルコニーへと、少しだけ段差をつけながら、しかも空間としてはすべてが緩やかにつながっている。これがスキップフロアの最大の魅力といえる。
西側は公園で、そちらの大きな窓から光と木々の緑が室内に降り注ぎ、明るく開放的なスキップフロアの空間が時を追っていろんな表情を見せるのが、楽しい。
一階玄関を入ると、下は土間、上はリビングへと空間は続く。
2階ダイニングから下はリビング、上はロフト、さらにルーフバルコニーへと続いていく。
細長い空間を、いかに明るく開放的な空間にするか。
とはいうものの、南北11m、東西4m未満という細長い家なので、南からの光を奥まで導くのは難しい。1階と2階が断絶された普通の平面構成では室内に光が回らず、「明るく開放的」な間取りにはならないと予想された。
しかし、南側の空の抜けと西側の公園の借景を取り込めば、地形の不利をメリットに変えられるはず。Ⅰさんご夫妻と工房は何度も相談し、知恵を絞りあった。
そして、南側の最も高い位置にルーフバルコニーを設け、そこへの出入り窓を利用して部屋の奥や階下に光を導く構成を考えた。そして、これをベースにしてリビングやダイニングが段差によって緩くゾーイングされる、変化に富んだスキップフロアができた。
「間取りが楽しいので、階段の上り下りがまったく苦にならないんです」とご主人。
スキップフロアの明るい空間には、大きな台形のダイニング・テーブルが据えられた。キッチンから、ダイニング越しに、リビング、ロフト、ルーフバルコニーまで見渡せる。隣の公園の借景も実にいい。きっとこの家にはたくさん「人が集まる」ことだろう。
東側アプローチと玄関。 こちら側は白っぽいサイディングボード。
片や西側は濃い色のサイディングボード。
アクセントクロスやロールカーテンの随所に可愛いアイデアが。
人が集う楽しい家になるよう、台形に仕立てたウォルナットの大テーブル。
ご主人の趣味、自転車のための部屋を半地下につくった土間。天井は珍しく2×4材による「あらわし」。
不動産仲介ネクスト・アイズ(株)の担当者と工房の設計担当、営業担当がⅠさんご夫妻を囲んで、竣工祝いの乾杯。
公園側から見た夕方の外観
所在地:東京都杉並区
竣工:2014年4月
用途・規模・構造:専用住宅・木造(2×4)・地上2階建 PH1階
断熱:内断熱/グラスウール
敷地面積、建築面積:敷地面積 96.52㎡、建築面積 42.23㎡
延床面積、各階面積:延床面積 86.11㎡
設計:株式会社工房 一級建築士事務所